キリロムグループCEO 猪塚武 のブログ

キリロム グループ CEO 猪塚武のブログです。キリロム工科大学やvKirirom Nature Landなどの事業の話を書きます。

キリロム工科大学が学費を実質無料にできる仕組みについて

 キリロム工科大学はカンボジア人にとっては義務と引き換えに無料の大学を実現しています。そして日本人や外国人にとっては卒業後に最大で支払った授業料と生活費の全額が戻ってくる実質無料の大学です。

 通常学費や生活費が無料ということは誰かの寄付で成立するソーシャルモデルなのかと思われますがキリロム工科大学はそうではありません。学生が大学の運営を無償のインターンシップで支えることにより大学が収益を上げて学費と生活費を無料にするモデルになっています。

 このモデルはカンボジアの貧しい子供向けに上級生が下級生を支援することで学費を無料にするカンボジアの学校のモデルを参考にしています。

 この仕組みに登場してくるのがKITポイントで、KITポイントは学校運営への無償インターンシップを経済価値に変換してポイント化しているものです。一定のKITポイント取得が卒業要件になっていて稼ぐ力があると評価されます。

 キリロム工科大学の学生は340KITポイントを目指していますが、170KITポイントで卒業できます。日本人は340KITポイントを獲得し、かつ企業スポンサーに就職すると全額学費と生活費が戻ってくる仕組みです。

 別の見方をすると働きながら学校に行くいわゆる「苦学生」モデルに近く見えるのですが、通学時間・食事を作る時間・洗濯時間をカットして無償インターンの内容を可能な限り専攻分野に近づけることで大学としての能力向上も同時に実現しています。

 インターンシップに関する法律は国によって違います。日本だと長期間の無償のインターンシップが労働に見なされることもありますが、カンボジアでは無償のインターンシップは長期間でも無償のインターンシップのままです。キリロム工科大学の学生は学生ビザであり、労働許可もないので労働はできません。教育目的の無償のインターンシップリーンスタートアップのスキルを身につけるのがキリロム工科大学です。

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キリロム工科大学の学生寮に冷蔵庫がない本当の理由

キリロム工科大学の学生寮には冷蔵庫がありません。そのことに驚く人もいるので背景をご説明します。

vKiriromプロジェクトはカンボジア環境省との間のエコツーリズムプロジェクトからスタートしています。キリロム工科大学はグリーンユニバーシティーとしてエコツーリズムの中の長期顧客の位置付けになっています。

どうすれば環境を守れるかと考えた時に木の伐採が必要なソーラー発電や供給量が不安定な風量発電よりも節電の方が圧倒的に可能性があるという結論に達して電気を使うエアコン・冷蔵庫・温水器・ヘアドライヤーなどを基本的に禁止し、かつ部屋ごとの電力供給のブレーカーの電流量を下げるという施策をとりました。2014年の頃の話です。ヘアドライヤーなしは流石に厳しいとか温水器は必要だ、大勢が集まる部屋ではエアコンが必要だということで少しづつ解除されていきましたが、できるだけ電気を使わない実験をするというコンセプトは今でも生きています。一昨年から政府の電源が山の上にも通りましたが、全使用電力をバックアップするのではなくデータセンターやインターネットやレストランなどのポイントをジェネレーターでバックアップするポリシーに沿っています。
電気乾燥機が大量の電気を使うことも大きな問題となっていてコインランドリーのような分散ランドリーではなく集中ランドリーになっています。現在は倒木と扇風機を使った電気を使わない乾燥室を作るプロジェクトも進んでいます。

また、冷蔵庫を置かないだけでなく、基本的には部屋でクッキングをしない方向性となっていてガスコンロも基本的に設置していません。これは火事のリスクを減らすためでもあります。

部屋で食事を作れない代わりに、食堂が365日3食無料になっています。毎日3回同じ場所に大勢が集まることによってコミュニケーション量を増やす効果もあると考えています。また、ランドリーサービスも無料になっていて学生は食事を作ったり服を洗ったりする時間を節約して勉強できるようになっています。

ここで無料と書いているのはあくまでカンボジア人学生の場合なのですが、日本人の場合も卒業時に最大全額学費と生活費が戻るので我々は日本人も無料だと考えてオペレーションしています。

今年は学生の声を反映して、コインランドリー的な分散ランドリーや冷蔵庫をテスト的に設置していますが大部分の学生はセントラルランドリーサービスを使っています。食事についてはクメール料理だけでなく、新しく洋食を第二学食で提供するようになっています。

現在ゴルフカートを使った自動運転とQRコードを使ったスマートロッカーのプロジェクトを進めていますが、スマートロッカーを積んだゴルフカートがレストランから部屋まで料理を宅配することも想定に入れています。

 

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冷蔵庫がない理由

 

キリロム工科大学にかかる費用の内訳について

キリロム工科大学の学費+生活費は合計で47100USD(先端技術IT学科の場合)です。昨年日本人学生の間で学食が口に合わないという相談が出て議論した結果、2020年の春学期からは食費+ランドリー+プノンペンへの交通費に関してはvKPointというポイントを使ったポイント制とすることになりました。支払った生活費が学生に戻されることはありませんが、使いたくないものは使わずに使いたいものを使うようにすることができるようにポイント制になります。このvKPointの利用範囲は広げたいと思っていて、リゾートに友達が来て宿泊するときなどにも利用できるようになればと思います。

 

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キリロム工科大学の2020年春学期からの費用内訳

このvKPoint(上の表の赤字)は2次元バーコードで処理することになっていて、現在はバーチャルカンパニーの1つEarlyphantが頑張って開発しています。開発の遅れで日本人学生から不満が出ていますが、キリロム工科大学の特徴は課題を自分たちで解決するという基本方針ですので運営側としては気長に待ちます。

4月からの入学を検討している学生さん向けの情報でもあるので外部のブログに公開しました。

 

キリロム工科大学 理事長
vKirirom Group CEO
猪塚武