ベンチャーキャピタリストの蛯原さんのFacebookの投稿をchatGPTのDeep Searchに深掘りしてもらったらこんな記事が生成されました。試しにブログに貼ってみます。人間が論文を書いても全く競争力がないですよね。原稿用紙30枚分。
ポスト・スタートアップ時代における社会・経済構造の転換
1. はじめに:スタートアップの黄金時代の背景
2000年代半ば以降、テクノロジー業界では新興企業(スタートアップ)が次々と登場し、かつてない隆盛を迎えました。その象徴の一つが Yコンビネーター(Y Combinator)の誕生です。Yコンビネーターは2005年に米国で創設されたスタートアップアクセラレーター(創業支援プログラム)で、これまでにAirbnbやDropboxなど4,000社以上の企業を生み出しました (Y Combinator - Wikipedia)。この時期から、若い企業への投資と育成のエコシステムが本格的に動き始めたのです。
さらに2008年のリーマンショック(世界金融危機)後、各国の中央銀行が打ち出した異例の金融緩和策により、市場には過剰なまでの資金が供給されました。先進国ではゼロ金利政策が長期間継続し、事実上タダ同然の資金調達環境が約10年以上も続きました (The end of 0% interest rates: what it means for tech startups and the industry)。この超低金利の時代(Zero Interest Rate Policy; ZIRP)は、リスクマネーを呼び込み、成長企業への投資を後押ししました。ちょうど同じ頃にスマートフォンやクラウドなどの技術革新も進み、FacebookやInstagram、Uberといったモバイル時代ならではのスタートアップが急成長しました。こうした追い風を受け、**「スタートアップの黄金時代」**とも呼べる活況が生まれたのです。
2013年にはベンチャーキャピタリストのエイルーン・リー(Aileen Lee)により、評価額10億ドル以上の未上場企業を指す**「ユニコーン」という言葉が提唱されました (What is a unicorn company? What you need to know - PitchBook)(※当時は約39社しか存在しないほど希少でした)。以降、「ユニコーン企業」の数は年々増加し、投資家やメディアにとってスタートアップの成功の代名詞となっていきます。例えば2010年代後半にはウーバーやエアビーアンドビーなど、ユニコーン入りする企業が続出しました。そしてコロナ禍**では追い打ちをかけるようにスタートアップ投資バブルが加速します。2020~21年頃は各国の金融緩和とデジタル需要の急拡大に支えられ、記録的な資金調達と企業評価額の高騰が起きました。2021年には世界で新たに629社ものスタートアップがユニコーン企業となり、この年だけで数百社規模の「億ドル企業」が生まれる異常事態となりました (What is a unicorn company? What you need to know - PitchBook)。スタートアップはまさに時代の寵児となり、投資マネーが雪崩のように流れ込んだのです。「SPAC(特別買収目的会社)」上場や暗号資産ビジネスなど、新興の資金調達スキームも乱立し、誰もがこの熱狂が続くと信じていました (Global Funding Slide In 2022 Sets Stage For Another Tough Year)。こうして2021年前後は、スタートアップにとってまさに黄金期の絶頂だったと言えるでしょう。
2. バブルの終焉:インフレ、利上げ、マーケットの冷え込みと評価見直し
しかし、このバブルは永遠には続きませんでした。2022年に入ると世界経済の様相は一変します。コロナ禍からの経済再開に伴って各国でインフレ率が急上昇し、アメリカでは40年ぶりの高インフレに直面しました。これに対応して米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ主要中央銀行は金融政策を転換し、大幅な利上げに踏み切ります。超低金利の時代が終わりを告げ、資金が潤沢だった環境にもブレーキがかかりました (The end of 0% interest rates: what it means for tech startups and the industry)。リスクマネーの引き揚げにより、株式市場、とりわけハイテク・グロース株は急落し、スタートアップへの投資熱も急速に冷え込んでいきました。
その影響は数字にも表れています。例えば世界のベンチャー投資額は、2021年に過去最高の約6,810億ドルに達しましたが、2022年には約4,450億ドルへと35%も減少しました (Global Funding Slide In 2022 Sets Stage For Another Tough Year)。これは投資環境がいかに急激に悪化したかを物語っています。また、未上場企業の評価額も軒並み見直され、ユニコーン企業の増加ペースは急減速しました。先述のとおり2021年に629社も生まれたユニコーンは、2022年には363社へ半減し、2023年には103社程度に激減しています (What is a unicorn company? What you need to know - PitchBook)。まさに熱狂の終焉です。
市場では「ソフトウェア/SaaSバブル」の崩壊も顕著でした。クラウドを通じてソフトウェアを提供するSaaS(Software as a Service)企業は、コロナ禍で需要が爆発し評価額が急上昇していましたが、2022年前後にその過熱感に冷水が浴びせられました。企業向けソフト市場は既に多くのプレイヤーで飽和状態になりつつあり、新規顧客の獲得や売上成長が鈍化したこともあります。そして金利上昇による将来価値の割引率上昇(ディスカウント率上昇)により、収益を出していないソフト企業の現在価値は大きく切り下げられました。その結果、公開市場ではクラウド/SaaS企業の株式時価総額がピークから約半分以下にまで下落し、株価収益倍率などのバリュエーション指標はおよそ3分の1程度(ピーク時の評価の67%減)にまで縮小しました (2022 SaaS Crash ‒ Meritech Capital)。一部の銘柄ではピーク比90%近い下落に見舞われたケースもあり、**「成長さえしていれば利益は問わない」**という従来の評価基準が崩壊したことを示しています。
未上場のスタートアップも例外ではありません。2020~21年に巨額の資金調達をしていた企業でさえ、2022年以降は次の資金調達ラウンドに苦戦したり、評価額を引き下げて資金調達を行う**「ダウンラウンド」を迫られる例が増えました。実際、2021年前後にIPO(新規株式公開)を果たしたスタートアップの多くは、上場時の株価を大幅に割り込み、一時は公開価格から90%近く価値を失った**企業も存在します (Global Startup Economy Update)。こうした極端な例はさておき、市場全体としてもスタートアップ神話に対する冷静な見直しが始まりました。投資家たちは急成長ストーリーだけでは飛びつかなくなり、実際の収益性や持続可能性に目を光らせるようになったのです。
このようにして約15年続いたスタートアップ・ブームは大きな転機を迎えました。インフレと利上げが引き金となり、過剰流動性に支えられていたバリュエーションのバブルは弾け、マーケットは「冬の時代」に突入しつつあります。しかし、これは悲観ばかりすべき状況ではありません。多くの投資家・起業家が足元を見つめ直し、真に価値のある事業へ資源を振り向ける契機ともなっているからです。
3. インターネットの普及と成熟市場:飽和するユーザー基盤
スタートアップ・バブルの揺り戻しの背景には、単に金融環境の変化だけでなく、市場そのものの成熟という構造的要因も存在します。2000年代から2010年代にかけてはインターネットやスマートフォンの普及に伴い、新規ユーザーや未開拓マーケットが次々と生まれました。世界中で毎年のように何億人もの人々が新たにインターネットに接続し、スマホを手に入れ、それまで届かなかったデジタルサービスの恩恵を受け始めた時期です。このユーザー基盤の爆発的拡大こそ、多くのスタートアップが急成長できた土壌でした。
しかし、2020年代に入りその勢いも鈍化しています。典型的な指標がスマートフォンの世界出荷台数です。スマホ市場は2016年に年間約14.73億台というピークに達しましたが、その後は伸び悩み、2020年には12.92億台と2013年以来の低水準に落ち込んでいます (Technology: Is the smartphone market growing or declining? | World Economic Forum)。先進国のみならず新興国でも携帯電話や通信インフラが行き渡り、一人一台のスマホ時代がほぼ到来した結果、成長余地が限られてきたのです。実際、スマートフォンの年間販売台数は2010年代後半から横ばいか微減傾向となり、市場の成熟ぶりを示しています (The smartphone market is in a pre-5G slump | Delano News) (The smartphone market is in a pre-5G slump | Delano News)。インターネット利用者数も世界全体で見れば数十億人規模に達し、未接続人口(デジタルデバイド)は徐々に縮小しています。特に都市部や若年層ではほぼ100%に近いインターネット浸透率となり、もはや「新しくネットを始める人」が大量に出てくる状況ではなくなりました。
この市場飽和は、多くのインターネットサービスにとって成長の前提条件が変わったことを意味します。かつては「インターネット人口の拡大」に乗じてユーザー数を右肩上がりに増やすことができましたが、今や新規ユーザー獲得は他社からの奪い合いになるケースが大半です。たとえばSNSひとつとっても、FacebookやTwitter(現X)、Instagram、TikTokなど主要プラットフォームが出揃い、ユーザーの時間シェアを巡るゼロサム競争が激化しています。新規参入しても既存巨頭からユーザーを奪うのは容易ではなく、かつてのように「市場そのものが毎年倍増する」という恩恵は望めません。Eコマースやライドシェア、フードデリバリーといった分野でも状況は似ています。主要国・主要都市では一通りサービス提供者が出揃い、新しいサービスが爆発的に普及する下地(未開拓の消費者層)は減少しています。
要するに、デジタル市場が成熟段階に入りつつあるのです。インフラが行き届いた今、スタートアップは過去のように「大きな白地図」を相手に戦うのではなく、すでに描き込まれた地図の中で差別化を図らねばなりません。これは成長のハードルが上がったことを意味し、従来のようなユーザー数至上主義のビジネスモデルが行き詰まりを見せる一因となっています。
4. ディープテックへのシフト:新たな成長分野とその背景
こうした状況下で、投資家や起業家たちは次なるフロンティアを模索し始めています。そのキーワードが**「ディープテック(Deep Tech)」**です。ディープテックとは、科学技術における困難な課題に挑戦し、社会の根本的な問題を解決する技術領域を指します (Deep Tech Claims a 20% Share of Venture Capital, Surging Two-Fold in the Past Decade)。具体的には、新エネルギー、半導体、人工知能(高度AI)、量子コンピューティング、宇宙開発、バイオテクノロジー・創薬、再生医療、新素材・新しい製造技術…といった分野が含まれます。これらは一見すると従来のITスタートアップとは毛色が異なり、ハードウェア開発や基礎研究を伴うケースも多いため、研究開発型スタートアップとも言えます。
なぜ今ディープテックが注目されているのでしょうか。その背景には幾つかの要因があります。第一に、気候変動やパンデミック、高齢化といった地球規模の課題が顕在化し、テクノロジーによる解決が強く求められていることです。例えばクリーンエネルギーや蓄電池、水素技術などは脱炭素社会の実現に不可欠であり、各国政府も巨額の資金を投じて研究開発を支援しています。また、新型コロナウイルスのワクチン開発(mRNAワクチンの成功)によりバイオテクノロジーの潜在力が示され、創薬ベンチャーや遺伝子編集(CRISPR)技術への関心が一段と高まりました (Deep Tech Trends for 2024 | Built In)。
第二に、地政学的リスクやサプライチェーンの見直しが先端技術投資を後押ししています。典型例が半導体で、米中対立や半導体不足を契機に、先端半導体の自国生産や新技術開発が戦略的に重視されるようになりました。日本でも官民で半導体新興企業(例:Rapidus社など)への投資支援が行われています。同様に宇宙産業も、かつては国家主導でしたがスペースX以降の民間ロケット開発競争や小型衛星ビジネスの拡大で、市場規模が飛躍的に伸びる期待が高まっています。国際宇宙ステーションの後継や月・火星探査計画なども控えており、宇宙スタートアップへの注目が集まっています。
第三に、AI技術の飛躍的進化があります。特に近年の生成AI(Generative AI)ブームはその一例で、チャットGPTに代表される大型言語モデルが社会にインパクトを与えました。AIはこれまでソフトウェア分野の一部でしたが、今や高度な計算資源や専用半導体(AIチップ)を必要とするハードウェア+ソフトウェア融合の領域へと発展しています。AI分野での熾烈な競争は、半導体開発(AIアクセラレーター)や量子アルゴリズム研究など周辺のディープテック領域への投資も呼び込んでいます (Deep Tech Trends for 2024 | Built In)。
こうした流れの結果、ベンチャー投資のポートフォリオに占めるディープテックの割合はこの10年で大きく伸びました。ある分析によれば、2010年代初頭には全体の10%程度に過ぎなかったディープテック分野への投資比率が、現在では約20%にまで高まっています (Deep Tech Claims a 20% Share of Venture Capital, Surging Two-Fold in the Past Decade)。実額ベースでもディープテック関連のベンチャー投資額は増加傾向にあります(直近では市場全体の冷え込みで一時的に減少したものの、長期トレンドとして拡大)。これはディープテックが従来は敬遠されがちだった長期・大規模投資の領域であるにもかかわらず、もはや主流の資産クラスになりつつあることを意味します (Deep Tech Claims a 20% Share of Venture Capital, Surging Two-Fold in the Past Decade) (Deep Tech Trends for 2024 | Built In)。
日本でもこの潮流は重要視されています。経済産業省はディープテック領域のスタートアップ創出を支援するため、大学発ベンチャー支援や特定分野(農業、医療等)に特化した起業家育成策の強化を打ち出しています (スタートアップ育成ポータルサイト - 内閣官房)。また官民ファンドを通じた宇宙・海洋・量子などの先端プロジェクト投資も進められています。ディープテック分野は、一朝一夕に成果が出るものではありませんが、そのぶん成功すれば社会へのインパクトが極めて大きく、次代の産業の柱となりうるポテンシャルを秘めています。まさに**「次の成長エンジン」**として、スタートアップ・エコシステム全体がディープテックへシフトしつつあるのです。
5. スタートアップという言葉の再定義:黒字化モデルの限界と社会的意義
スタートアップを取り巻く環境変化に伴い、「スタートアップとは何か」という定義や概念も見直しを迫られています。これまでスタートアップという言葉は、しばしば「創業間もないベンチャー企業」一般を指して使われ、急成長やイノベーションといったポジティブなイメージが先行してきました。しかしバブル崩壊後の現在、単に新しいというだけでなく事業モデルの健全性や社会にもたらす価値に注目が集まっています。
まず問われているのは、「黒字化しないまま成長を追い求めるモデルの限界」です。先述のように、低金利と豊富なリスクマネーに支えられた時代には、赤字でもユーザー数拡大に全力投資する戦略が容認されてきました。いわゆる「グロース優先、プロフィット軽視」のモデルです。しかし高インフレ・高金利の局面では、その戦略は持続困難です。実際、金利上昇によってリスク資産への投資コストが上がると、収益を上げられないビジネスへの投資意欲は急速に萎みました (Global Startup Economy Update)。結果として多くのスタートアップが早期の収益化やビジネスモデルの見直しを迫られています。スタートアップ自身も「とにかくユーザー獲得」という姿勢を改め、単位経済性(ユニットエコノミクス)の改善やコスト削減によるキャッシュフロー重視へと舵を切る企業が増えています。かつては合言葉のように「シェアを取ってからモネタイズ(収益化)すればいい」と言われましたが、それでは資金調達が続かない現実が突きつけられたのです。
同時に浮上しているテーマが、スタートアップの社会的意義です。社会・経済にもたらす革新性の高さや公共的価値が、収益性と並んで重視され始めています。単に儲かるかどうかだけでなく、その事業が社会課題を解決したり、新産業を創出したりするインパクトを持つか――投資家も政府も、この観点でスタートアップを評価・支援する傾向が強まっています。特にディープテックのような領域では、短期的な収益より長期的な社会利益(例えば環境改善や人々の健康増進)が目的となるため、従来の収益評価軸だけでは測れません。そこで政府による支援や大企業とのオープンイノベーションを組み合わせ、事業を育てるエコシステム作りが模索されています。
日本においても、「スタートアップ」と「中小企業」の概念整理が進んでいます。従来、日本ではベンチャー企業も含めて中小企業支援の枠組みで語られることが多かったのですが、近年はスタートアップ支援を別枠で強化する動きがあります。政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、同年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。この計画では「5年でスタートアップの数・レベルともに10倍増」を掲げ、具体的には2027年度までにスタートアップへの年間投資額を約10兆円規模に拡大し、将来的にユニコーン企業を100社創出、スタートアップ企業数を10万社に増やすという大胆なKPIを設定しています (「スタートアップ育成5か年計画」はじめ振興策をめぐり議論 (2023年10月19日 No.3609) | 週刊 経団連タイムス)。ここには、これまでの中小企業振興策とは一線を画し、革新的で高成長が見込める企業(=スタートアップ)を国家戦略として育成する狙いがあります。つまり**「スタートアップ = 将来の産業の担い手」**と位置づけ、その定義を単なる新興企業から「高成長・高付加価値の新事業創造主体」へと再定義しているのです。
要約すれば、ポスト・スタートアップ時代においては**「持続可能な成長モデル」と「社会に資するイノベーション」**の両立が求められていると言えます。かつてのような成長至上主義から脱却し、収益性と社会性のバランスを取りながら、なおかつ大胆な技術革新に挑戦する――それが新たなスタートアップの理想像として浮かび上がっています。スタートアップという言葉は、今や単に若い企業を指すのではなく、「次代を切り拓く変革者」を意味する方向へと変わりつつあるのです。
6. 結論:社会・経済全体に求められるピボットと今後のビジネス戦略
スタートアップ黄金時代の興隆とバブルの崩壊、そして市場構造の成熟とディープテックへの移行――本稿で見てきたように、この20年弱でスタートアップを取り巻く社会・経済構造は大きく姿を変えました。今まさに我々は**「ポスト・スタートアップ時代」の幕開けに立っていると言えるでしょう。それは、単にスタートアップ企業だけの話ではなく、ビジネスや投資に関わる社会・経済全体がパラダイムシフト(発想の転換)**を迫られている時代です。
この新時代に対応するためには、各プレイヤーが自らの戦略を**ピボット(方向転換)**させる必要があります。企業経営者にとっては、成長戦略の再設計が急務です。過剰なまでの需要予測や楽観シナリオに依存するのではなく、現実的な収支バランスと持続可能性を織り込んだビジネスプランが求められます。同時に、真に将来性のあるイノベーションには大胆に投資する攻めの姿勢も重要です。ディープテックなど長期勝負の分野では、短期的な利益に囚われず大局観を持って経営資源を投入する判断力が問われるでしょう。
投資家の側も戦略転換が必要です。低金利バブル期のように**「とりあえず資金をばら撒いて当たれば儲けもの」というアプローチは通用しなくなりました。今後は各投資先のファンダメンタルズ(基礎的収益力)を精査し、的確なバリュエーションで投資する目利き力が一段と重要になります。また、従来は敬遠されていたハードテック領域や社会インフラ系のビジネスにも目を向け、ポートフォリオを多様化する必要があるでしょう。国や地域によっては公的資金や政策と連携した投資(例えばグリーン投資や医療・教育分野など)も増えており、そうした「社会的リターン」**も視野に入れた投資戦略が求められています。
政府や公共部門にとってもピボットの時です。スタートアップ支援策について、これまでの金融支援中心から、人材育成・規制緩和・官民連携など総合的なエコシステム構築へと政策の舵を切る必要があります。日本政府の5か年計画にもあるように、スタートアップを量的に増やすだけでなく、大企業との協業促進や大学発研究の事業化、グローバル市場への展開支援など、多面的な取り組みが重要です。また、社会課題の解決に資するスタートアップには助成金や税制優遇を与えるなど、長期的視点のインセンティブ設計も欠かせません。
最後に、我々ビジネスに関わる個々人も意識をアップデートする必要があります。ポスト・スタートアップ時代は、かつてのように誰もがユニコーンを目指す熱狂の時代ではないかもしれません。しかし見方を変えれば、腰を据えて本質的な価値創造に取り組む時代とも言えます。市場環境が厳しい中でも、GoogleやFacebook(現Meta)のように不況期に生まれ大きく育った企業もあります (Global Startup Economy Update)。重要なのは、環境変化に柔軟に適応しつつ、自らのミッションを見失わないことです。社会・経済全体が一丸となって次のイノベーションを支え育てるエコシステムを作り上げれば、不確実性の高い時代でも新たな成長の物語を描くことができるでしょう。
ポスト・スタートアップ時代における変化は決して終わりの合図ではなく、新しい始まりの合図です。スタートアップの概念が成熟し、私たちもまた成熟した視点で起業と投資に向き合うことで、次なる10年・20年の持続的成長と豊かな社会の実現が期待できます。今こそ発想を転換し、未来志向のビジネス・投資戦略へと舵を切る時ではないでしょうか。その先には、バブルに浮かれた夢物語ではなく、地に足の着いた形で実現する新しいユニコーンたちの活躍が待っているに違いありません。
参考文献・出典(抜粋):
- 【13】Y Combinator – Wikipedia(2023): YCは2005年創設のスタートアップアクセラレーター (Y Combinator - Wikipedia)
- 【15】Gergely Orosz, "The end of 0% interest rates: what it means for tech startups and the industry" – The Pragmatic Engineer(2024): 2008年以降のゼロ金利政策でテック業界が恩恵 (The end of 0% interest rates: what it means for tech startups and the industry)
- 【11】PitchBook, "What is a unicorn company?"(2024): ユニコーンの定義(2013年にAileen Leeが提唱、当時39社のみ) (What is a unicorn company? What you need to know - PitchBook); 2021年に629社のユニコーンが誕生し、その後急減速 (What is a unicorn company? What you need to know - PitchBook)
- 【37】Crunchbase News, "Global Funding Slide In 2022..."(2023): 2022年のグローバルVC投資額は前年比35%減の4450億ドル(2021年は6810億ドル) (Global Funding Slide In 2022 Sets Stage For Another Tough Year); 2021年当時の熱狂的投資環境の描写 (Global Funding Slide In 2022 Sets Stage For Another Tough Year)
- 【2】StartupBlink, "Global Startup Ecosystem Update"(2023): 2021年のスタートアップバリュエーションバブルとその崩壊、金利上昇で成長優先モデルから収益優先へ (Global Startup Economy Update) (Global Startup Economy Update); 高金利下で資金繰りが厳しくなる予想と危機期創業の名企業例 (Global Startup Economy Update)
- 【41】Meritech Capital, "2022 SaaS Crash"(2022): 公開SaaS企業の時価総額がピークから約1兆ドル(50%以上)消失、評価倍率も平均67%低下 (2022 SaaS Crash ‒ Meritech Capital)
- 【30】World Economic Forum, "Have we passed the peak of the smartphone era?"(2021): 世界のスマホ出荷台数は2016年1,473百万台でピーク、2020年には1,292百万台まで減少 (Technology: Is the smartphone market growing or declining? | World Economic Forum)
- 【7】Statista/Delano, "The smartphone market is in a pre-5G slump"(2019): スマホ市場は成熟し2016年ピーク後減少、2019年は2016年比7%減の13.7億台と予測 (The smartphone market is in a pre-5G slump | Delano News) (The smartphone market is in a pre-5G slump | Delano News)
- 【19】【20】Boston Consulting Group, "Deep Tech – The Next Wave of Innovation"(2023): ディープテックがVC投資の20%を占めるまでに成長(10年前は10%) (Deep Tech Claims a 20% Share of Venture Capital, Surging Two-Fold in the Past Decade) (Deep Tech Trends for 2024 | Built In); AI応用加速、半導体競争、遺伝子編集の進展などディープテック台頭の要因 (Deep Tech Trends for 2024 | Built In)
- 【22】経団連タイムス「スタートアップ育成5か年計画…議論」(2023年): 日本政府は2022年に5か年計画策定、2027年度までにスタートアップ投資額10兆円、ユニコーン100社・スタートアップ10万社創出目標